俺の屍を越えてゆけ

ジャケット
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対応機種・周辺機器
プレイステーション
ジャンル
ロールプレイングゲーム
著作・制作
(c)SCE アルファシステム1999

リンダキューブ」「ネクストキング」といった、ちょっとヘンなゲームを作るゲームデザイナー桝田省治とアルファシステムによるRPG。
 桝田作品としては「天外魔境II」以来の和風の世界観を持つ本作「俺の屍を越えてゆけ」は、いったいどんなゲームなのか。

 時代は平安、京は鬼に襲われ荒廃しきっている、ゲームの目的はこの鬼退治。
 しかし、プレイヤーには二つの呪いがかけられる、それは「短命」と「種絶」。
 一族はこの苛烈な呪いと戦いながら、鬼の頭目「朱天童子」の討伐を目指す。

 この後、わりと厳しい事を書くが、このゲームはかなり面白い。
 レビューを読んで勘違いされる方もいそうなので、最初に言っておく。

基本ルール

 プレイヤーキャラクタは、短命の呪いがかけられた一族。そう「一族」である。短命も短命、2年たたないうちに死んでしまうので、1キャラクターでのクリアは到底無理、そこで子孫を残していかなければいけない。
 簡単に言って、 パリティビット「ダービースタリオン」の調教+レース部分がRPGのダンジョンに置き換えられたシステムと言える。しかし、対象が人間であるので、そこで感じるものはかなり違いがある。無理矢理な設定を作ってでも人間でやる事に意味があるのだ。

 一族にはもう一つ「種絶」の呪いがあって、人との子供が残せない。そこで、神と交わって子供が作られる。
 子孫がやってくるたびに育て直しなので、ぐいぐいレベルアップしていくローグ的な面白さもある。ダンジョンの細部が毎回生成されるのもローグ的。
 勿論、遺伝子や装備による底上げがあるので、一族はどんどん強くなる。

 一族の成長を考えなきゃいけないので、常に交神(子づくり)を見据えてプレイする事になる。毎度、桝田作品はエロい。
 だいたい、2年弱しか生きない一族の相手の神様は千年生きてたりする。ロリショタもいいとこ。子づくりのときの神様のセリフがまたエロい。桝田エロ大王だ。
 ついでに、神様だから何でもありってことで、男同士や女同士でも交神できたりすると、エロさ満開だったのに。…いやまぁエロゲーじゃないんだけどね。

全体のゲームバランス

 最初に「あっさり」〜「どっぷり」の四つのモード(難易度調整ではなくクリア時間調整)から選択できるできるのだが、なんとゲーム中にも自由に変更可能になっている。
 正直な所これは失敗。ゲーム中にモードを細かく変更すると攻略が楽になるが、ゲームは楽しくならない。
 マニュアルに、ゲームデザイナーとしては主体性が無いと言われる覚悟で四つのモードを付けたとある。あえて言わせてもらうと、やっぱりゲームデザイナーとしては主体性が無かった。ここはゲームデザイナーのエゴを通してよい所だ。他では通しまくりなのに。

 相場への投資がほとんど確実に利益が出る事もあって、特に京の復興が終わると金が余ってしょうがない。
 一応、姿絵(美人画)や幻灯屋(家族写真)があるものの、アホみたいに金が使える訳ではない。それに、姿絵はゲームの基本である「一族」との関連が薄すぎるので浮いている。RPGとしては珍しく定住しているんだから、家具をどんどん揃えるとか庭に凝るとか、もっと「家」に金をかけられる方が良かった。買った鯉の方が自分より長生きするとか、切なくていいじゃないかー。

 戦闘自体は起伏に富んだ良い出来であるとは言え、準備してダンジョンへ行って戦闘の繰り返のプレイなので、ゲーム全体としては単調。
 ダンジョンは基本的には「駆け抜ける」だけの場所なので、もう少し仕掛けがあっても良かった。
 ストーリーによる牽引力も弱いため、システムを一通り理解した時点でゲームを放り出したい衝動にかられる。

 それから、2年弱で寿命を迎えてしまうという時間制限があるために、荒っぽい無駄の多いプレイを許さない雰囲気があり、常に焦ってしまう。
 個人的には、ゲームデータを保存するたびに保存回数がカウントされることが、焦りに拍車をかけた。
 変なプレッシャーを受けてストレスとなっているので、もう少しいい加減なプレイを許すシステムや設定にした方が良かったろう。

戦闘

 このゲームは、戦闘が良くできている。
 戦闘中の攻撃に範囲が設定されていたり、位置取りができるにも関わらず、位置取りの意味が無いゲームも少なくないが、本作はパズル的面白さもある位に位置取りに意味がある。
 術の種類によっては勿論、通常攻撃も職業によって範囲があるのが、戦闘の面白さを高めている。

 戦闘前に手に入るアイテムが表示されることに加え、大将を倒すと戦闘が終了するというルールが、戦闘の目的意識を高める。
 隊長以外のキャラクターは3つの戦術(戦闘コマンド)を提示してくるので、その中から選択する、AIによる戦闘とコマンド選択の中間のような、なかなか使いやすいシステムだ。
 ちなみに、通常のコマンド選択も可能だが忠誠度が下がるようになっている。このあたりも、隊長と隊員の関係を巧く表現したシステムと言える。

 多くの術が重ねがけ可能であるとこや、移動中のみに使える術が無く戦闘中でもなんらかの効果を持っていたりすることも、戦闘を奥深いものにしている。
 ただ、術の名前と強さがもう一つ結びつかないのが難点。「矛錆び→矛折り→矛盗み」は分かりやすいが、「赤玉→花連火→花乱火」はちと分かりづらい。「小赤→中赤→大赤」ぐらいの分かりやすさが欲しい。
 神の名前と術の名前を結びつけようとして無理が出た格好だ。まず術の覚えやすさを最優先にして名付けるべきだった。

 属性武器が非常に強いとか、術を覚えるのに装備が関係するとかあるので、単純に数字を比べるだけではない装備を選ぶ面白さもある。

シナリオ

 ルール自体はそれほど難しいものではないが、一見普通のRPGっぽいので最初にちょっと混乱する。
 例えば、1世代だけをプレイするシナリオとかあれば、入門としては勿論、それはそれでやり込み甲斐のあるシナリオ(モード)として成立したんじゃなかろうか。マニュアルで最初の3ヶ月を解説するというのは親切ではあるが、ある意味では逃げとも言える。

 街に出て人に話が聞ける訳ではないので、ストーリーは敵や狂言回しのセリフで語られ、量がない、結果として説明的になり、語りはシステムの理由付けに終始してしまった感もある。
 それでも、ストーリーが良く感じるのは、声優の高山みなみの力による所が大きい。高山みなみに任せときゃ大丈夫でしょ的ないい加減さまで感じる。

 逆に、プレイヤーの想像力にゆだねる部分が多いシステムからすると語り過ぎ。
 マニュアルにも、僕の書いているようなあざといシナリオなんか邪魔なだけと書いてあるんだけど。

 またストーリーとしては、プレイヤーの立場が分かりにくいのも難点。一応、当主という事になるのだろうが、それなら死んだ時点でゲームオーバーだ。操作している感覚としてはダビスタで言う所の牧場主となるが、ゲームの中にはそういうキャラクターは存在しない。
 代々の当主に魂が乗り移るという設定もできなくはないが、ゲームでプレイヤーに体験させたいのは一族の視点だろうし、なかなかに悩ましい。

インタフェース

 インタフェースはボタンの統一感もあり、配置や色使いもおおよそ適切で、かなり良くできている。
 本サイトのエッセイ「メニューの次元」等で語った良い例そのままなので、私が本作を下敷きに書いたようですらある。
 多少メニューの配置に難があるが、一般的に言えば高いレベルと言える。

 ただ、カーソルが判りにくい(かなり長い間、お手伝いの「イツ花」だと気づかなかった)とか。
 行間の隙間が無く、フォントもアンチエイリアスがかかっている訳でもなく、解像度が高い訳でもないので、かなり文が読みにくいとか。
 なんだか素人臭い所で失敗している。

交神

 神の顔のグラフィックは、男神の方は結構バリエーションがあるのに、女神はあんまり変なのがいない。
 数人しかいないなら、美人ばっかりでも問題ないが、数が多いので、もっと変化があった方が選びがいがある。
 バリエーションを感じないのは一族の顔も同じで、もっと思い切ったキャラクターを描いてほしかった。
 絵柄はオタクよりではあるが、嫌みが無く無難な所。ただ一般的な訴求力という意味では失敗かもしれない。ギャルゲーの類いと勘違いされそうだ。

 ある一定の条件を満たして戦闘に突入すると神が解放される。しかし、解放した後も条件が分からない。
 ゲームで守らねばならない約束事として「成功と失敗を納得させる」というものがあるのだが、本作における謎解き要素はほとんどこれだけなのに、納得できないことといったら無い。
 ほとんどの場合「何故か解放された」という印象しか無いし、最初の遭遇で解放されて謎解きも何も無い場合も少なくない。
 一気に解放されて増えたりするのも、ちょっとバランスが大味。

 それぞれの神のパラメータも、マニュアルに書いてあるほど意地悪でもなく、テキトーに交神しても、そんなに能力の劣った子供は生まれなかった。
 運がよかっただけかもしれないが。徹底的にどうしようもない子供が生まれてもいいような気がする。

移動

 移動シーンがポリゴンで作ったクオータービューなのだが、今ひとつ採用理由が分からない。
 立体的な仕掛けがある訳でも、視点変更ができる訳でもなし。しかも、戦闘や復興等の他のモードでクオータービューは使われていないので、整合性も悪い。

 基本的に右上にボスが存在するようになっているので、ほとんどの場合は右上に進むのだが、戦闘に突入すると、サイドビューとなる上にプレイヤーキャラが左向きで画面右側に配置されてしまい、位置がひっくり返ってしまう。

 また、戦闘突入はマップ上をうろついている敵にぶつかることで行われるが、当たり判定がかなり粗い。そもそもクオータービューで当たり判定が分かりにくいのでイライラする。

その他

 136ページという、最近の複雑なRPGでもちょっと見ない、戦略シミュレーションのような厚さのマニュアルが付属する。
 これは良くできているが、ちょっと書き過ぎの感がある。厚さに気圧されて、読まない人が出そうだ。
 それに、このレビューで指摘している事の多くが、自己突っ込みの形で書いてあるので、レビュアー泣かせだ。はっはっは。

 プレイヤーキャラクタは遺言しか喋らないので、立派だったり足掻いていたりしょうもなかったりするその言葉は印象に残る。山田風太郎「人間臨終図巻」を思い起こさせる趣のある仕掛けと言えよう。
 と言いたい所なんだけど、なんで名品貰った時に喋っちゃうのよー!これには、ちょっとがっかり。

 3年の開発期間をかけたぶんの質の高いゲームとなっているが、流石に新しい試みであるだけに、まだバランスやシステムに、こなれていない部分も多いゲームであった。
 なんだかんだ言っても、ドラクエで一番好きな職業は何かと聞かれると「勇者の父親」と答える私にとって、基本設定の時点で勝っているゲームである。

 そこで結論。

「面白い!傑作だ!だから2を作りましょう!」


2005-02-09